築くのは、暮らしと未来。
建築資材業界トップリーダーが語る課題と展望【後編】

柴田敏晶氏
伊藤忠建材株式会社 取締役会長

建築資材専門商社として、福井を拠点に事業展開を続けるアロック・サンワ株式会社。
今回は、同業界のトップリーダーである伊藤忠建材株式会社の取締役会長、柴田敏晶氏を対談ゲストにお招きした。
17年という長期に渡って代表取締役社長を勤め、現在は会長としてリーダーシップを発揮する柴田氏から、深い考察や未来展望が止め処なく溢れ出る。
建築資材業界の動向や課題、リーダーシップと組織文化、さらには培われた経営哲学にも踏み込み、対話は弾む。

住宅業界の課題・中小工務店を取り巻く変化

石橋:非住宅の木造建築という新分野への取り組み方や、日本の里山の現状と国産木材の活用について、ご見識ありがとうございます。
これらは大きな課題であると同時に、また大きな機会でもあるなと改めて感じました。

柴田:そうですね。住宅業界に限った課題としては、先ほどお話に挙がりました「人口減少に伴って、着工棟数が減っている」ということです。
他には、残念ながら「中小工務店の需要が減って、大手にとられている」という最近の変化ですね。
昔は「近所の大工さんに家を建ててもらった」というのが大多数でしたが、今は一般的とは言えないでしょう。
「地域の中小工務店がその地域内の家を建てる時代」から「大資本の大手メーカーがあちこちに分譲を建てて売る時代」になっています。

石橋:たしかに。

柴田:アロック・サンワさんも伊藤忠建材もそうですが、やはり中小工務店さんには今までお世話になっています。中小工務店さんには、今まで通りサポートしますし、一生懸命頑張っていきます。
しかし、それだけだと経営的に不利となっていくのも現実です。 大手のビルダーさんとも付き合っていく必要が生じるということです。
例えば、500棟以上を建てているビルダーによる家は、2007年では日本全国の25%でした。それが昨年、2022年には48%まで上がっています。

石橋:15年間でほぼ倍ですね。

柴田:これからもこの傾向は続くでしょう。
地方の中小工務店さんは、今までは自分が元請けとして家を建ててましたけれども、今度は大手ビルダーの下請け的なポジションになってしまう、というような変化が出てくるでしょうね。
そうなると我々の販売先が変わりますから、そこにどう対応していくか、ということも大事な要素になります。

石橋:変化の影響が連動していきますね。

柴田:住宅関連の法律が厳しくなっていることも影響があるでしょう。国から「あの書類出して。この処理出しなさい」となっていますから。
なかなか、小規模の工務店さん単独では、いささか無理がかかる状況ですね。

石橋:ZEHやゼロエネルギー等、新しい基準が出てきていますが、そういったものに中小工務店さんが100%完璧に対応できるかというと…。

柴田:難しいですよね。法律の変化、書類の変化というものが生まれていますから。
そこにどう対応していくかということも、業界として、あるいは流通としての課題ではないでしょうか。

地方企業の生き残り方、アロック・サンワへの期待

石橋:業界・流通の変化という点に触れていただきましたが、そこで当社アロック・サンワに期待やご意見等はありますか?

柴田:福井はアロック・サンワさんが強いところですから。ぜひ、より一層シェアを取っていただいて、そして当社からたくさん購入していただきたいです(笑)。

石橋:(笑)

柴田:お客さんも変わってきていますので、物を販売するだけというのではなかなか難しくなりつつあります。
その流れに対しては、アロック・サンワさんでは既にされておられますけども「工事を引き受ける」「今までやってきた事業の幅を広げる」「既存事業の、隣りの事業をやる」ということが必要になるかと思います。
そこはぜひ、リスクを抑えながら伸ばしていっていただきたいと思いますね。

石橋:リスク対策をしつつ、しっかりと伸ばす、と。

柴田:「リスクはどれくらいか」「本業にどれくらいのシナジー効果があるか」を見定めていくわけですね。
新規事業を行うには必ずリスクが伴います。下手な経営者だと会社がおかしくなってしまいます。
例えば、「家を建てる」という事業をするとしましょう。そこには、新たなお客さんが生まれるということです。それは本業側にプラスになります。
本業でもプラスが出せれば、両方プラス。しかし、どちらかで赤字になり、もう一方に負担がかかるようではいけません。
それに流通業者となると、中小工務店さんという従来のお客さんのライバルになってしまいます。

石橋:以前、柴田会長からいただいたお言葉の中に、大都市圏と地方を比較して戦略を立てる場合「地方ではワンストップで何でもやった方がいい」という内容がありました。
確かにその通りだなと、今のお話からも思います。

柴田:都会はまだまだ人口が増えますので、都会と地方では戦略が異なります。
プロ野球球団があるような大都市では、大きい企業がぶつかりあいながら専門性を特化させていくでしょう。
一方、大都市圏以外の地域では人口数も市場規模も小さいので、「住宅、非住宅、リフォーム、何でも全部うちでやりますよ」という形の、ワンストップの営業をやっていくというのが理想の形になると思います。
地方の人口は今後も減少していきますから、需要が減る以上、他のものに取り組んでいくしかないのです。

石橋:お客さんから「アロック・サンワに相談すれば何でも解決する」と認識される、という形にするわけですね。

柴田:それが将来の目標でしょうね。今の状態からプラス1、また5年後にプラス1、と増やしていくことが、生きる道・勝つ道だと思います。

経営者としての考え方や戦略、先見性やリーダーシップ

石橋:これまでのお話を伺いまして。そのような経営者としての考え方や戦略、先見性等はどのように身に付けられたのかなと感じ入りました。

柴田:そうですね。自分のことで言うならば、私が社長になったのは2005年、今から18年前になります。
先のお話の通り「10年後20年後には住宅着工数が減る」ということは予想されていましたから、同じことを続けていたら業績は落ちるわけです。
だから「何かをやらなくてはいけない」と考えました。

石橋:なるほど。

柴田:そうすると「新しいお客さんを見つける」か「新しい商品を取り扱う」か「新しい機能を始める」という、この3つしかないとなりました。
そして、この3つを1つずつ取り組んできました。いろいろなことに取り組んできたから、住宅着工数が185万から85万に減った現代も会社は売り上げを伸ばしている、という状態になれたと思います。

石橋:伊藤忠建材さんの成長は、戦略を長期的に取り組めたことも大きな要因のひとつかと感じています。
当時の柴田社長の、商社のトップとして17年というのは、おそらく異例中の異例だと思うのです。
そこまで長期になったのは、ずっと結果を出し続けられてきたからかなと思っているのですが。

柴田:商社の社長在任期間は、一般的には4年から6年ですかね。

石橋:4年を基準に考えれば、在任期間が4倍以上ですか。
14年前に私が結婚式をした時、社長として来賓のご挨拶をいただいたことを今もおぼえています。今また、こういう形でお話できるのが非常に嬉しいです。
社長に就任されたのは、おいくつのときになりますか?

柴田:52ですね。 業界的には、57、8ぐらいで社長になるケースが多いと思いますから、自分は若かったですね。

石橋:52歳の時に社長になられたのは、何かきっかけが?

柴田:それは…私は知りません(笑)。周囲に尋ねるような話でもないですしね(笑)。

石橋:当時52歳の社長としてリーダーシップを発揮するに、重きを置いたことは何かありますか?

柴田:リーダーシップというほどでもないですが、「伊藤忠建材という会社の、もともとあった文化を変えてはいけない」と思っていました。
当社には、どちらかというと、仲が良くて、あまり争いを好まない傾向があります。仲がいいということは悪いことではないですから、大事な文化だと思います。
今まで10年20年、そこの文化で生きてきた人に、急に右から左に変えなさいと言っても、なかなかできるものではありません。
「変えるべきもの」と「変えてはいけないもの」があると思いますが、「伊藤忠建材の文化は、変えてはいけないものだ」と思い、あまり触れませんでした。

社長在任中の、企業内変化への取り組み

石橋:今は「社内文化を変えないようにした」というお話でした。逆に、変えた部分は何かありますか?

柴田:事業部ですね。昔は営業本部がふたつありましたが、専門分野で分けて、ひとつずつを専門部隊にしました。
木材製品の部隊や、合板専門の部隊等、それぞれを独立採算制にして、ジェネラリストよりスペシャリストを育てていきました。

石橋:そこで、「実施してよかった」という部分は何がありましたか?

柴田:やはり専門家ができた点ですね。
海外や国内の動きを把握できるスペシャリストの養成が、良い方に向いたと思います。

石橋:「商社」というとジェネラリストが多いイメージですからね。

柴田:輸入品もありますので、相場で利益が左右される面があります。やはりスペシャリストが必要ですね。

石橋:女性社員の起用や登用も積極的にされましたか?

柴田:女性の総合職はずっと採るようにしました。私が入った時、総合職で女性は2人ぐらいだったかと思います。
その後、課長職を務める女性も出まして。今後が楽しみです。

石橋:スペシャリストの育成に伴い、性別等に囚われない人材の活用も、変えられた部分なのですね。

柴田:この業界においては、各分野でのスペシャリスト戦略の方がいいと思います。
もちろん個人によっては向き不向きがありますし、横の移動もさせますけど、基本的には、私はスペシャリスト足るべきだと思います。
なぜなら、「商材を仕入れる人」と「お客様に販売する人」が別というのは、私はありえないと思っているからです。
「仕入れる人が販売する」ならば、採算も含めて全て分かりますよね。

石橋:「仕入れる人が販売する」は、伊藤忠建材さんほど大規模な会社だと難しいのかなと思っていました。

柴田:基本的な方向性として、その人や部署の中で完結しているのは大事です。全責任を負うわけですから「損できない」という意識がより強くなります。その意識がありますと、仕入れや販売により緊張感を持つと思います。
今まで100円で仕入れていた商材を、99円で仕入れる努力をするかもしれない。101円で販売していた商材を、101.5円で販売する努力をするかもしれない。絶対とは言えませんけれど、その方が採算性を良くできる可能性が高いですよね。

石橋:責任という点で、当社も変えたことがあります。
以前は、在庫の数量を決めるのは購買部門だけで行っていました。でも今は、営業に決定してもらっています。
「どれだけ在庫を持つか」という決定に携わることで、より責任感を持つので良いという考えです。

柴田:そうやって関わっていく環境や体制は大事ですね。
例えば、メーカーが顕著ですが、製造部門と営業部門の仲が悪い場合があります(笑)。
製造部門は営業に対して「なぜそんな安い値段で売ってくるのか?」「なぜ量をもっと売れないのか?」という思いを持つ傾向があります。
一方、営業部門は製造に「なぜもっとコストを安く作れないのか?」と思います。
ここのコミュニケーションで上手くやっていくことが、採算性向上の大切なポイントだと思います。

経営者としての絶対的使命を達成するために

石橋:経営を進めていく中で、「こうしなければいけない」と「こうやりたい」という思いが起きたとき、どのようにバランスを取られますか?

柴田:それは全て、利益の比較での判断しかしていませんね。
Aに進んだ場合の利益はいくらで、Bに進んだ場合の利益はいくらか。より儲かる方に進む、という非常に単純な考えです。
もちろん可能性の話ですから、結果は逆かもしれませんけど。

石橋:他の要素は一切考えないようにされるのですか?

柴田:私の役割は、会社をいかに大きくして利益をいかに上げるか、ということです。そのミッションを達成するのが絶対的使命です。
そうなると、利益の少ないものに力を入れられません。全部を着手するわけにいきませんから。
選択肢の中で、シナジーも含めて、一番利益を生むものは何だろうか、ということだと思いますね。こういうお話は単純な結論になるかと思います。

石橋:なるほど。

柴田:まあ、やりたいことがあったとしたら、「このやりたいことが他の投資と比べて、よりベターとなるにはどうしたらいいか?」ということは考えますよ。

石橋:「やりたいこと」を決してやらない、というわけでないのですね。

柴田:はい、やらないわけではないですね。
「他の投資と比べて、よりベター」という範疇に行かなかったらやらない、ということです。みんなに認めてもらうには、そうしなくてはいけない。

石橋:ありがとうございます。
このような内容を過去、公にお話しされたことはありますか?

柴田:そのような質問は、いただいたことがないですね(笑)。

石橋:初めてお話いただきありがとうございます(笑)。
本日は貴重なお話を伺えて、大変学びになりました。ありがとうございました。

対談者情報

柴田 敏晶
伊藤忠建材株式会社 取締役会長
経 歴
1953年、静岡県出身。
2005年、伊藤忠建材株式会社 代表取締役社長 就任。
2022年、同 代表取締役会長 就任。
2023年、同 取締役会長 就任。
大手建築資材商社「伊藤忠建材株式会社」の代表取締役社長を17年に渡り務め、現在は同社の取締役会長として業界を牽引する。